2007年11月12日月曜日

投資理論は信じるものではなく活用するもの

投資理論は信じるものではなく活用するもの

「貯蓄から投資へ」のかけ声もあり、「多少のリスクは覚悟のうえ」と思い切って投資の一歩を踏み出した人も多いのではないでしょうか。ところが、実際に始 めてみると、金融機関の方から説明を受けている時は理解したつもりでいても、本当の意味では理解していなかったことに気づくことが多いものです。

 例えば、投資信託などを購入する際に、「長期投資」「ポートフォリオ」「ドルコスト平均法」の重要性を説明され、納得したつもりになったことはないでしょうか。これら3つの投資理論の有効性と活用法を考えてみましょう。

「長期投資」でリスクは減る?

 投資において「リスク」というのは「収益のブレ」のことです。儲かる可能性がある反面、値下がりする危険性があるものを「リスク」と捉え、そのブ レが大きいものがリスクが高く、小さいものをリスクが低いと言います。ただし、過去のデータによりますと、短期的に見ると収益のブレが大きくても、長期に なるほどブレが小さくなると言われています。

 具体的には、「日本株式」「外国株式」「日本債券」「外国債券」といったアセットクラスごとの指標(インデックス)に、過去のある時点で投資をしてそのまま30年程度動かさなかった場合のデータを根拠にしています。

 高格付けの債券であれば、保有していれば利息はほぼ確実に入ってくるでしょうし、償還時には元本が戻ってきます。しかし、元本の保証がなく、値動きの大きい株式で、長期保有が本当に報われるのでしょうか。

長期投資って何年だと思いますか?

 ところで、長期投資の「長期」とはどのくらいの期間でしょうか?「長期」の捉え方は人によってまちまちです。1年を超えれば長期だと考える人もいれば、5年超、10年超など、「長期投資とは△年」というような決まりがあるわけではありません。

 図版1は1985年1月からの日経平均株価の推移です。投資を始める時期が悪ければ、ずっと我慢をして20年持ち続けたとしても報われないケース は決して少なくありません。たとえ値上がりをしても、保有期間を1年当たりの複利率に換算すると、リスクの大きさには見合わない不本意な利率しか得られな いケースもあります。

日経平均株価の推移(月次データ終値)

 株式のような値動きのあるものに投資する際には、割安の水準で買って割高で売ることが原則で、長期間持ちっぱなしで報われるものではありません。 長期にこだわるあまり、せっかく利益を確定するチャンスを逃したり、「長期で持てば大丈夫だから」と割高なところで始めると、投じた資金を他の商品に回し ていれば得られたはずの収益を、何年間も諦めなくてはならないかもしれません。

 「長期投資」とは、割安・割高の時期がいつの時点で訪れるか分からないので、短期で一喜一憂するのではなく、長期スタンスで取り組むことの大切さ を説くものと考えてはどうでしょうか。いつも申し上げていることですが、生活者にとって投資のためのお金は「暮らしのお金」です。「いつ」までに「いく ら」のお金が必要かを確認し、相場環境に関係なく、必要なお金が準備できるようなプランニングをしなくてはなりません。「長期」という曖昧な言葉ではな く、「私の暮らし」の時間軸で考えることが大切です。だからこそ、前回までのキャッシュフロー表が有効なツールとなるのです。

最適なポートフォリオって?

 すべての卵を1つのかごに盛ってしまうと、そのかごを落としたら、卵はすべて割れてしまいます。「1つのかごに卵を盛るな」という言葉は、集中投資を戒 め、分散投資の重要性を説く言葉です。ポートフォリオとは、値動きの違うものを組み合わせて、ブレを抑えて安定した収益を目指すためのものです。

 長期投資と同様、ポートフォリオの有効性もアセットクラスごとの過去のインデックスのデータを根拠としています。日本株式や外国株式は、1年1年 を見れば値動きが大きく、2~3割程度上がる年もあれば、反対に大きく下げる年もあります。ところが、平均すると日本株式は7~8%、外国株式は8~9% 程度に収束しているようです。このような過去の実績から、それぞれのアセットクラスの期待リターンを設定し、望むリターンを得るための資産配分を示したも のがポートフォリオです。

 図版2は5%のリターンを目指すためのポートフォリオの1例です。ポートフォリオとは、ある意味数字合わせのようなもので、「こうすれば確実にリ ターンが得られる」というものではありません。分散して複数のかごに卵を盛ったとしても、その卵がすべて割高な時に購入したものだったり、古くて腐りかけ ていたのでは期待通りの結果は得られません。

図版2

 また、ポートフォリオという言葉に振り回されて、すべてのアセットクラスを持たなくてはいけないと思い込む必要はありません。投資は暮らしを豊か にするための道具であって目的ではありません。もし、普通預金やMRF(マネー・リザーブ・ファンド)、MMF(マネー・マネジメント・ファンド)などの 流動性の高い資産や、定期預金、日本債券などだけで必要なお金が準備できるのであれば、無理に株式投資をしなくてもよいのです。

「今」を確認する道具としてのポートフォリオ

 ポートフォリオの活用の仕方として、それぞれのアセットクラスの期待リターンから、保有資産の「今」の位置を確認してみてはどうでしょう。現在保 有している資産をアセットクラスごとに分類して、それぞれの配分を確認します。そのうえで、資産全体の期待リターンを計算してみてください。ご自身で目標 としているリターンが得られるような配分になっているでしょうか。反対に、目標とするリターンはさほど大きくないにもかかわらず、それに見合わないリスク を取り過ぎてはいませんか。また、現時点で期待リターンを大幅に超える収益が上がっているとすれば、いずれ調整が入るものと覚悟して、少しずつ利益確定を していくことを考えてはどうでしょう。

 期待リターンは将来を約束するものではありませんが、歴史の集積であることは確かです。ポートフォリオに振り回されるのではなく、上手に活用していくという姿勢が賢明です。

ドルコスト平均法は万能?

 値動きのあるものに投資する場合、割安な水準で買うのが基本ですが、考えているうちに投資のタイミングを外してしまうこともよくあることです。そ のようなことを避けるために、一定期間ごとに一定額を購入していくドルコスト平均法という手法があります。一定額を購入しますから、高値の時は少なく、安 値の時は多く購入でき、結果として平均購入コストを下げることができます(図版3)。

図版3

 ただし、ここでもドルコスト平均法が万能なわけではなく、「何」に投資するのかが重要です。値下がりを続けて何年間も値が戻ってこない場合、「た くさん買えてよかった」どころか、収益の上がらない資産を増やしていくことになってしまいかねません。質の良い商品を、割安な水準で買うという原則は、ド ルコスト平均法であっても同様です。

 何も考えずにひたすら積み立てるのではなく、割高になってきたら積み立てを停止するとか、いったん売るといったメンテナンスも必要でしょう。また、集中投資になる危険がありますので、資産全体のバランスを定期的にチェックすることをお忘れなく。

投資理論は先人の智恵

 投資理論は、過去において多くの方たちが失敗をしてきた蓄積の上に、ノウハウとして受け継がれたものです。「これさえやっておけば大丈夫」と、ひたすら信じるものではありません。あくまでも智恵として活用するものです。

 短期の上げ下げに心を乱されることなく、同じ種類の資産に集中投資することを避け、底値で買うことは難しいので、割安なタイミングで購入時期を分 散するといった、場面場面に応じてふさわしい智恵を活用するよう心がけたいものです。せっかく投資をしようと前向きに踏み出したのであれば、「投資はもう コリゴリ」とならないよう、家計運営の道具の一つとして上手に使いこなしていきましょう。


このコラムについて

 家計簿というと奥さんのもので、かつ、面倒くさいだけでほとんど役に立たないというイメージがいつの間にか世間に浸透してしまった。しかし、その イメージは節約に節約を重ねていた時代のもの。今や1500兆円を超える個人資産をどう生かすかが日本の将来を決めると言っても大げさではない時代であ る。生活を楽しみ資産をさらに増やし、老後をばら色に送るために、戦略的な家計運営が必要になっている。まずはこれまでの常識から脱し、次には企業会計で 使われるような先端的会計術を使って家計を運営してみる。奥さんがまずその魅力に取りつかれ、そして夫も奥さん任せにできなくなるはずだ。

筆者プロフィール

内藤 眞弓(ないとう・まゆみ)

フィナンシャルプランナー。1956年香川県に生まれ、日本女子大学英文科卒。13年間、生命保険会社での営業を経験した後、独立系のフィナンシャ ルプランナー集団「生活設計塾クルー」のメンバーに。家計運営に次々と新しい考え方を取り入れ、それぞれの生活スタイルに合った家計運営術をコンサルティ ングしている。著書に『医療保険は入ってはいけない!』、共著に『生命保険はこうして選びなさい』『年金はこうしてもらいなさい』などがある。

戦略的・家計運営術

[戦略的・家計運営術]

 「戦略的・家計運営術」の全記事

日本経済ヘッドライン

主要三紙比較ニュース

このブログに掲載された全ての内容及び添付資料は特別な記載が無い限り全ての権利を保留とします。リンクは許可しますが、無断転載はお断りします。また、一部情報はインターネットに公開されている情報を転載しております。転載しない希望があれば遠慮なくご連絡して下さい。速やかに対応致します。